この記事の監修者

行政書士:寺岡 孝幸(てらおか たかゆき)
資格:行政書士、土地家屋調査士(とちかおくちょうさし)。
取扱い分野:相続人の調査確定や相続手続き全般。

経歴:開業以来17年間、相続手続きに関する業務を行っています。
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叔父や叔母の遺産の相続で、
甥や姪が相続人になる場合があります。

それは、叔父や叔母に子や孫など直系卑属がいなくて、
叔父や叔母の両親や祖父母など直系尊属も死亡していたり、
又は全員相続放棄したり、若しくは全員相続権を失い、
叔父や叔母の亡兄弟姉妹に子(甥や姪)がいる場合です。

ただ、叔父や叔母の遺言書がある時と無い時とで、
甥や姪が相続人になる場合となれない場合があります。

そこで、叔父や叔母の遺産相続で甥や姪が相続人になる場合と、
叔父や叔母の遺産を甥や姪が相続する手順について、
相続専門の行政書士がくわしく解説いたします。

この記事を閲覧することで、叔父や叔母の遺産相続で、
甥や姪が相続人になる場合や相続するための手順がわかります。

叔父や叔母の遺産相続で甥や姪が相続人になる場合

叔父や叔母の遺産相続で甥や姪が相続人になる場合、
叔父や叔母の遺言書がある時と無い時とで違いがあります。

なぜなら、遺言書があれば、原則、法律よりも優先されるので、
遺言書の内容に基づいて財産を分けることになり、
遺言書が無ければ、法定相続人同士の話し合いで財産を分けるからです。

叔父や叔母の遺言書がある時と無い時
(叔父や叔母の遺言書がある時と無い時)

そのため、叔父や叔母の遺言書がある時と無い時のそれぞれで、
甥や姪が相続人になる場合について解説していきます。

叔父や叔母の遺言書がある時

叔父や叔母が法的に有効な遺言書を残していて、
遺産の内容とその分け方が明確に記載されている場合、
遺産相続は、原則としてその遺言書の内容に従って行います。

叔父や叔母の遺言書
(叔父や叔母の遺言書)

たとえば、叔母の遺言書に、
「姪〇〇〇〇に全財産を与える」のように記載されていれば、
原則、叔母の姪が全財産を相続します。

遺言は、民法の法定相続よりも優先されるからです。

遺言は民法の法定相続よりも優先
(遺言は民法の法定相続よりも優先)

そのため、叔母に子供や孫などの直系卑属がいても、
叔母の両親や祖父母などの直系尊属が生存していても、
叔母の兄弟姉妹が生存していたとしても、
姪は叔母の遺産を相続できることになるのです。

上記の例を、叔母を叔父に置き換えても同じで、
姪を甥に置き換えても同じ内容になります。

遺言なら、法定相続人以外にも遺産を与える事ができるので、
叔父又は叔母の財産を甥や姪に与える内容の遺言書でしたら、
甥や姪が相続人でなくても、受遺者として、
叔父や叔母の遺産を相続することができるということです。

逆に、たとえば叔父の遺言書に、
「妻に全財産を相続させる」と記載されていれば、
原則、叔父の妻が全財産を相続します。

そのため、叔父に子供や孫などの直系卑属がいなくて、
叔父の両親や祖父母などの直系尊属も全員死亡していて、
叔父の亡兄弟姉妹の子(甥や姪)が法定相続人であっても、
甥や姪は叔父の遺産を相続できないことになるのです。

上記の例を、叔父を叔母に置き換えて、
妻を夫に置き換えても同じ内容になります。

ただし、相続人全員の同意があれば、
遺言に従うことなく相続人全員の遺産分割協議によって、
甥や姪が叔父や叔母の遺産を相続することは可能です。

ちなみに、遺言によって財産を与えることを遺贈といい、
遺言によって財産を無償で与える人を遺贈者、
遺言によって財産を受け取る人を受遺者といいます。

叔父や叔母の遺言書が無い時

叔父や叔母の遺言書が無い時は、民法の法定相続が適用されます。

民法の法定相続では、次の1~3の順位で、
相続人になれる人が定められています。

  1. 被相続人(叔父または叔母)の子供や孫などの直系卑属
  2. 被相続人(叔父または叔母)の両親や祖父母などの直系尊属
  3. 被相続人(叔父または叔母)の兄弟姉妹およびその代襲相続人

叔父や叔母に、子供などの直系卑属がいなくて、
両親や祖父母などの直系尊属も全員亡くなっており、
叔父や叔母の亡兄弟姉妹に代襲相続が発生している場合に、
甥や姪は相続人になれます

代襲相続というのは、たとえば叔父や叔母の兄弟姉妹の内で、
すでに亡くなっている兄弟姉妹がいる場合に、
その子供(叔父や叔母の甥や姪)が代わりに相続人になることです。

例えば、独身の叔父が亡くなり、叔父の直系尊属も既に他界し、
叔父の亡兄弟姉妹に子(甥や姪)がいて、
生きている兄弟姉妹もいる場合、
生きている兄弟姉妹と甥や姪が相続人になります。

独身の叔父の遺産相続で甥や姪が相続人になる例
(独身の叔父の遺産相続で甥や姪が相続人になる例)

上記の例では、独身の叔父を独身の叔母に置き換えても同じで、
もし、独身の叔父(又は独身の叔母)の兄弟姉妹が、
全員亡くなっていれば、甥や姪のみが相続人となります。

しかし、叔父や叔母に子供や孫が1人でもいる場合や、
叔父や叔母の両親や祖父母が1人でも生きている場合、
兄弟姉妹が全員生存している場合は、甥や姪は相続人になれません

なぜなら、甥や姪は第三順位の相続人だからです。

第三順位の相続人については、
第三順位の相続人」でくわしく解説しています。

ただ、甥や姪が叔父や叔母と養子縁組をしていて、
その叔父や叔母が亡くなった場合には、甥や姪としてではなく、
養子として第一順位の相続人になれます。

第一順位の相続人については、
第一順位の相続人」でくわしく解説しています。

なお、相続人の範囲と順位については、
法定相続人の範囲と順位をわかりやすく解説!」をご参照ください。

叔父叔母夫婦の遺産相続で甥や姪の相続権

例えば、子供や孫のいない叔父叔母夫婦で叔父が亡くなった時、
叔父の両親や祖父母など直系尊属も既に死亡していて、
叔父の亡兄弟姉妹に子(甥や姪)がいる場合には、
叔父の配偶者である叔母と、叔父方の甥や姪に相続権があります。

叔父の配偶者と、甥や姪が相続人になる例
(叔父の配偶者と、甥や姪が相続人になる例)

しかし、次のように、叔母方の甥姪には相続権はありません。

叔父の遺産相続では、義理の叔母の甥姪には相続権はない例
(叔父の遺産相続では、義理の叔母方の甥や姪には相続権はない例)

なぜなら、叔母方の甥や姪から見れば、
叔母の配偶者は義理の叔父にあたるので、
義理の叔父とは血縁関係にないからです。

逆に、次のように叔母が先に亡くなった場合も同じで、
叔母の遺産相続では、義理の叔父方の甥姪には相続権はありません。

叔母の遺産相続では、義理の叔父方の甥姪には相続権はない例
(叔母の遺産相続では、義理の叔父方の甥姪には相続権はない例)

なぜなら、叔父方の甥や姪から見れば、
叔父の配偶者は、義理の叔母にあたるので、
義理の叔母とは血縁関係にないからです。

しかし、被相続人の配偶者は、常に相続人となります。

そのため、叔父叔母夫婦の片方が亡くなり、
遺言書が無い場合は、亡くなった方と血縁関係にある甥や姪が、
亡くなった方の配偶者(義理の叔父又は叔母)と共に、
法定相続の順番によっては、相続人になるということです。

ちなみに、甥や姪は第三順位の相続人となり、
第三順位の相続人」でくわしく解説しています。

次に、叔父が亡くなり、叔母も亡くなった場合では、
叔父叔母の各両親や祖父母など直系尊属も既に死亡していて、
叔母の亡兄弟姉妹に子(甥や姪)がいる場合には、
叔母方の甥や姪に相続権があり、叔父方の甥や姪には相続権はありません。

叔父が亡くなり、叔母も亡くなった場合は、叔母方の甥や姪が相続人になる例
(叔父が亡くなり叔母も亡くなった場合は、叔母方の甥や姪が相続人になる例)

なぜなら、この場合は、叔母の遺産相続となり、
先に亡くなった義理の叔父方の甥姪とは血縁関係にないため、
叔母の遺産相続では、義理の叔父方の甥姪には相続権はないのです。

なお、法定相続人の範囲と順位については、
法定相続人の範囲と順位をわかりやすく解説!」で、
くわしく解説しています。

叔父や叔母の遺産を甥や姪が相続する手順

叔父や叔母の遺産を甥や姪が相続するには、
次の手順で進めると良いです。

  1. 相続人の調査確定
  2. 自筆証書遺言がある時は、遺言書の検認
  3. 遺言書が無い時は、相続人全員で遺産分割協議
  4. 必要なら、遺産分割協議書の作成
  5. 叔父や叔母名義の銀行預金や不動産などの相続手続き

それでは上記手順を1つずつ解説していきます。

手順1:相続人の調査確定

叔父又は叔母の遺産相続で甥や姪が相続人になる場合、
相続人の調査は、具体的に次の資料を役所で取得して行います。

  • 被相続人(叔父又は叔母)の出生から死亡までの
    戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍
  • 被相続人(叔父又は叔母)の父母の出生から死亡までの
    除籍謄本、改製原戸籍
  • 被代襲者(叔父又は叔母の兄弟姉妹で既に亡くなった人)の
    出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍
  • 相続人(叔父又は叔母の兄弟姉妹と甥姪)全員の戸籍謄本

なお、被相続人(叔父又は叔母)の祖父母の出生年によっては、
祖父母の死亡のわかる除籍謄本や改製原戸籍も必要になります。

また、上記の除籍謄本や改製原戸籍が、
保存期限が過ぎて役所で廃棄されていたり、
戦災で焼失していれば、その証明書も必要です。

そして、取得した上記の戸籍類の内容から、
叔父又は叔母の法定相続人が誰になるのかを、
正確に判断することになります。

そのため、叔父や叔母の相続人の調査確定作業は、
相続人調査の中でも最も困難で非常に時間のかかる作業なのです。

手順2:自筆証書遺言や秘密証書遺言がある時は、遺言書の検認

叔父または叔母の自筆証書遺言や秘密証書遺言がある時は、
上記1の相続人調査で取得した全ての戸籍類を添付して、
家庭裁判所で遺言書の検認を受ける必要があります。

3種類の遺言書
(3種類の遺言書)

ただし、叔父または叔母が公正証書遺言を残していたり、
法務局に保管している自筆証書遺言の場合には、
家庭裁判所で遺言書の検認は不要です。

手順3:遺言書が無い時は、相続人全員で遺産分割協議

叔父や叔母の遺言書がない時は、
法定相続人全員の話し合いで、法定相続分で分けるか、
法定相続分ではない分け方をするかを決めます。

叔父や叔母の遺産の分割協議のイメージ
(叔父や叔母の遺産の分割協議のイメージ)

遺産分割協議自体は、実際に相続人が集まっての話し合いでも、
1人1人と電話や手紙のやり取りでも、
協議がまとまればどの方法でもかまいません。

法定相続分(民法で定めている相続割合)については、
法定相続分とは?民法の法定相続人の相続割合」で、
くわしく解説しています。

手順4:必要なら、遺産分割協議書の作成

相続人が複数いて、叔父や叔母の遺言書が無く、
叔父や叔母名義の不動産(土地や建物)がある場合には、
遺産分割協議書を作成しなければ、不動産の相続手続きができません。

しかし、叔父や叔母の遺産に不動産が無い場合は、
遺産分割協議書の作成は必須ではありません。

ただ、疎遠な甥や姪が相続人にいる場合は、
後でもめることのないよう遺産分割協議書を作成した方が無難です。

手順5:叔父や叔母名義の銀行預貯金や不動産などの相続手続き

叔父や叔母名義の銀行預貯金の相続手続きは、各銀行で行います。

そして、相続人が複数いる場合の銀行預貯金の相続手続きでは、
相続人の中から代表相続人(代表受取人)を1名決めて、
その方が手続きを行い、預貯金の全額を一旦受け取る流れが一般的です。

叔父や叔母の銀行預金の相続で、甥または姪が代表相続人のイメージ
(叔父や叔母の銀行預貯金の相続で、甥又は姪が代表相続人のイメージ)

その後、その代表相続人から他の相続人に対して、
相続分を配分することになります。

叔父や叔母名義の不動産の相続手続きは、
その不動産を管轄している法務局で行います。

不動産の相続手続きでは、令和6年4月1日から義務化され、
甥や姪が不動産を取得したことを知った日から3年以内に、
相続手続きの申請をしなければならないので注意が必要です。

ただ、叔父や叔母の遺産相続で甥や姪が相続人の場合では、
手順1の相続人の調査確定作業だけでも、
他の相続に比べて手間と時間が数倍かかります。

そのため、叔父や叔母の相続が発生しているのでしたら、
できるだけ早めに相続人の調査を始めることが先決なのです。