行政書士:寺岡 孝幸(てらおか たかゆき)
資格:行政書士、土地家屋調査士(とちかおくちょうさし)。
取扱い分野:相続人の調査確定や相続手続き全般。
経歴:開業以来17年間、相続手続きに関する業務を行っています。
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第一順位の相続人は、被相続人の子です。(民法887条1項)
被相続人の子には、嫡出子(ちゃくしゅつし)、
非嫡出子(ひちゃくしゅつし)、養子、胎児が含まれます。
また、被相続人の子が、相続開始前に死亡している時や、
相続欠格、又は廃除によって相続権を失った時は、
その者の子が代わりに相続人になります。
これら子及びその代襲者等の相続権については、
民法887条で明記されています。
ただ、第一順位の相続人がいる場合に、
第二順位や第三順位の相続権はどうなるのかや、
子はどんな時でも相続第一順位なのか、
第一順位が相続放棄したらどうなるのかなど、
よくわからないという方も多いのではないでしょうか?
そこで、相続人の調査確定業務を行っている行政書士が、
第一順位の相続人についてくわしく解説いたします。
この記事を閲覧することで、第一順位の相続人は誰なのか、
第一順位の相続人がいる場合の相続権や相続放棄が全てわかります。
第一順位の相続人
第一順位の相続人は、被相続人の子ですが、
具体的には、被相続人の嫡出子、非嫡出子、
養子、胎児、子の代襲者のことです。
それでは1つ1つ簡単に解説していきます。
被相続人の嫡出子、非嫡出子
嫡出子は、法律上の婚姻関係にある夫婦の子のことで、
第一順位の相続人になります。
非嫡出子は、法律上の婚姻関係にない男女の子のことで、
嫡出子と同等に第一順位の相続人です。
被相続人の子が嫡出子でも、非嫡出子でも、
被相続人の子であることに違いはないので、
どちらも第一順位の相続人になります。
ただし、非嫡出子は、婚姻してない男女の子になるため、
母親の相続については、当然相続人になりますが、
父親の相続については、認知された子でないと相続人になれません。
認知というのは、この人は自分の子であると認める事で、
被相続人が生前に認知していれば、
認知していることが戸籍に記載されています。
生前に認知していなくても、遺言による認知でもかまいません。
なお、被相続人の嫡出子または非嫡出子であれば、
未成年者であっても、年齢に関係なく第一順位の相続人になります。
被相続人の養子
養子には、普通養子と特別養子があり、
戸籍上、養子縁組をしていれば、
養子は実子と同様に第一順位の相続人になります。
ただ、普通養子の場合は、下図2のように、
実父母と養父母の両方の相続で、
それぞれ第一順位の相続人になります。
しかし、特別養子の場合は、下図3のように、
養父母の相続で第一順位の相続人になりますが、
実父母の相続では、相続人になれないという違いがあるのです。
被相続人の養子の有無については、
被相続人の出生から死亡までの戸籍の謄本類を役所で取得して、
その内容を確認することで正確にわかります。
戸籍上、被相続人の養子であれば、
未成年者であっても、年齢に関係なく第一順位の相続人になります。
被相続人の胎児
胎児は、死産にならなければ、第一順位の相続人になります。
胎児はまだ人ではなく、生まれて初めて人となりますが、
民法886条で「胎児は、相続では既に生まれたものとみなし、
胎児が死体で生まれた時は、この規定は適用しない」とされています。
そのため、胎児が生まれてみないことには、
相続人が誰になるのかが確定できません。
また、妻ではない女性のお腹に、被相続人の胎児がいた場合は、
婚姻していないため、被相続人の遺言書による認知か、
訴訟による認知が必要になります。
被相続人の胎児と認められれば、
他に子がいてもいなくても、たとえ愛人の子であっても、
死産でない限り、胎児は第一順位の相続人になるのです。
被相続人の子の代襲者(孫やひ孫など)
被相続人の子が既に亡くなっている場合や、
相続欠格又は相続人廃除により相続権を失った場合、
被相続人のその子は相続人になれません。
その場合、その子に、被相続人の孫にあたる子がいれば、
下図4のように、孫が代襲相続人になります。
これを代襲相続といい、代わりに相続する人を代襲相続人といいます。
子など直系卑属には無限に代襲相続が認められていますが、
直系卑属でない人には、代襲相続は認められていません。
また、下図5のように、被相続人に子や孫が数人いて、
子が未婚の場合や離婚していても、
代襲相続の場合、それぞれの孫は同等に代襲相続人になります。
もし、被相続人の孫もすでに亡くなっていて、
その孫に、被相続人のひ孫にあたる子がいる場合は、
下図6のように、ひ孫が代襲相続人になるのです。
これを、再代襲相続といいます。
子、孫、ひ孫など直系卑属については、
無限に代襲相続が認められているのです。
以上の第一順位の相続人については、
「民法887条(子及びその代襲者等の相続権)」で明記されています。
ちなみに、子の嫁や婿は、被相続人とは血縁関係がなく、
被相続人の義理の子にあたるので、相続権はありません。
被相続人の配偶者の連れ子も、被相続人と血縁関係がないので、
戸籍上、被相続人の養子にならない限り相続権はありません。
もし、被相続人に子がいない場合には、
第一順位の相続人はいないということになり、
被相続人の父母や祖父母などの第二順位に相続権が移ります。
第二順位の相続人については、
「第二順位の相続人」でくわしく解説しています。
第一順位がいる場合、第二順位や第三順位の相続権は?
被相続人の子など第一順位の相続人が1人でもいる場合、
第二順位や第三順位の相続人が生存していても、
第二順位と第三順位の相続人に相続権は全くありません。
なぜなら、被相続人の遺言がある場合を除いて、
相続順位の異なる者が、同時に相続人にはなれないからです。
たとえば、被相続人に配偶者と子がいて、
第二順位の父母や第三順位の兄弟姉妹も生存している場合、
被相続人の父母や兄弟姉妹には相続権はないということです。
もし、遺産分割協議で第一順位の相続人全員で合意しても、
第二順位や第三順位の相続人に相続させることはできません。
第二順位(父母)や第三順位(兄弟姉妹)に相続させるには?
被相続人の父や母に相続させたい場合は、
第一順位の子全員が相続放棄を家庭裁判所で行えば可能です。
また、第二順位の父母に相続権が移った後、
第二順位の全員が相続放棄を家庭裁判所で行えば、
第三順位の兄弟姉妹に相続させることも可能です。
よくある間違いとして、被相続人の配偶者が相続放棄をしても、
相続人は第一順位の子のみになるだけで、
第二順位の父母などに相続権が移るわけではありません。
被相続人の配偶者に全て相続させるには?
被相続人の配偶者に全て相続させたい場合は、
第一順位の子が家庭裁判所で相続放棄をしなくても、
遺産分割協議書によって子全員が相続放棄をすれば可能です。
逆に、第一順位の子が家庭裁判所で相続放棄をすると、
第二順位の被相続の父母が相続人となり、
第二順位が全員他界していれば、
第三順位の被相続人の兄弟姉妹などが相続人になってしまいます。
子はどんな時でも第一順位の相続人?
被相続人の子が、相続欠格に該当している場合や、
相続人の廃除をされている場合は、
第一順位の相続人になれません。
また、被相続人の子が相続放棄をした場合には、
初めから相続人ではなかったことになります。
そのため、被相続人の子は、
どんな時でも第一順位の相続人というわけではありません。
第一順位の相続人が相続放棄したら?
第一順位の相続人が全員相続放棄を家庭裁判所でした場合、
被相続人の父母又は祖父母など第二順位に相続権が移ります。
被相続人に配偶者と子がいる場合
被相続人に配偶者と子がいて、
被相続人の子全員が家庭裁判所で相続放棄した場合、
被相続人の父母に相続権が移ります。
その場合、配偶者が独占するわけではなく、
相続人は、被相続人の配偶者と父母です。
もし、被相続人の父母が既に死亡の場合には、
被相続人の祖父母に相続権が移ります。
その場合、相続人は、被相続人の配偶者と祖父母です。
もし、祖父母など直系尊属が全員死亡や、
家庭裁判所で全員相続放棄をした場合には、
被相続人の兄弟姉妹に相続権が移ります。
その場合、相続人は、被相続人の配偶者と兄弟姉妹です。
もし、被相続人に兄弟姉妹がいない場合や、
家庭裁判所で兄弟姉妹が全員相続放棄をした場合、
すでに亡兄弟姉妹の甥や姪も全員相続放棄をした場合には、
被相続人の配偶者のみが相続人になります。
なぜなら、相続人になれる人の範囲は、
被相続人の甥姪までで、甥や姪の子供や、
叔父や叔母、叔父や叔母の子供には相続権はないからです。
そして、被相続人の配偶者も相続放棄している場合には、
相続人はいないということになります。
ただ、被相続人の配偶者が全部相続したい場合には、
家庭裁判所で第一順位の相続人が相続放棄をしなくても、
遺産分割協議で相続放棄をすれば可能です。
被相続人の子など第一順位の相続人が、
遺産分割協議で相続放棄をする場合、
被相続人の父母や祖父母、兄弟姉妹に相続権が移ることはありません。
被相続人に配偶者なしで子がいる場合
被相続人に配偶者なしで子がいて、
子が全員相続放棄した場合、
第二順位の被相続人の父母に相続権が移ります。
この場合、相続人は、被相続人の父母のみです。
もし、被相続人の父母も相続放棄した場合や、
被相続人の父母が既に死亡の場合には、
被相続人の祖父母に相続権が移ります。
この場合、相続人は、被相続人の祖父母のみです。
もし、被相続人の祖父母など直系尊属が全員他界していたり、
全員相続放棄した場合には、
被相続人の兄弟姉妹など第三順位に相続権が移ります。
被相続人の兄弟姉妹で既に他界している人がいて、
その人に被相続人の甥姪にあたる子がいる場合には、
甥姪に相続権が移ります。
もし、被相続人の兄弟姉妹や甥姪がいない場合には、
相続人になれる人は誰もいないので、
相続人不存在ということになります。
なぜなら、相続人になれる人の範囲は、
被相続人の甥や姪までで、
甥や姪の子には相続権はないからです。
ちなみに、被相続人の兄弟姉妹の配偶者(義理の兄弟姉妹)も、
相続人の範囲に含まれていないため、相続権はありません。
相続人になれる人の範囲と順位については、
「法定相続人の範囲と順位をわかりやすく解説!」で、
くわしく解説しています。
第一順位の相続人を証明するには?
被相続人の銀行預金の解約などの相続手続きでは、
相続人の調査確定を行い、銀行など相続手続き先に対して、
相続人であることを証明しなければなりません。
実際に相続人全員を調査して確定し、
相続人であることを銀行などに証明するには、
戸籍謄本などを役所で取得する必要があります。
ただ、被相続人が父や母なのか、祖父や祖母なのかによって、
取得すべき戸籍謄本などに違いがあるため、
それぞれの場合を簡単に解説いたします。
被相続人が父または母の場合
被相続人(父または母)の出生から死亡までの戸籍謄本、
除籍謄本、改製原戸籍と、
相続人の戸籍謄本を役所で取得する必要があります。
被相続人が祖父または祖母の場合
被相続人(祖父または祖母)と、
既に他界している被相続人の子について、
それぞれの出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、
改製原戸籍と、相続人の戸籍謄本を役所で取得する必要があります。
なお、出生から死亡までの戸籍謄本の見本や見方については、
「出生から死亡までの戸籍謄本の見本と見方」で、
くわしく解説しています。